公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2023年 春季展

本館

中国の銅鏡

概要

 唐時代をピークとする中国の銅鏡。様々な素材と技術を駆使して、描きだされる背面の美しい文様のなかから、今回は鳥・獣に注目してみます。
鏡のなかの「鳥」文:
 鏡に登場する鳥には鴛鴦(おしどり)や鶴、鴨などがいますが、この多くは番(つがい)で表され、また時に綬帯(じゅたい)と呼ばれる紐を銜(くわ)えています。これらは円満や繁栄を象徴する吉祥を示します。また、螺鈿(らでん)を用いた鏡では、鳥の文様が頻出する傾向にあります。鳥文を表す鏡の諸相についてご紹介し、その役割について探求していきます。
鏡のなかの「獣」文:
 鏡の獣文として、龍や麒麟(きりん)、鹿や馬などがみられますが、例えば獅子は、ペルシアなど西アジアで描かれてきたライオンがモティーフとなっています。鬣(たてがみ)を持つ勇壮な姿は、まさに百獣の王。中国において、ライオンはそれまで描かれてきた四脚の獣文にも取り込まれ、多様な姿で表されました。幻獣・神獣として表される「獣」たちの姿を鏡のなかにみていきます。

主な展示品
螺鈿鴛鴦宝相華文八花鏡(らでんえんおうほうそうげもんはちかきょう)
唐時代 D.24.6㎝
螺鈿鴛鴦宝相華文八花鏡(らでんえんおうほうそうげもんはちかきょう)
螺鈿鴛鴦宝相華文八花鏡(らでんえんおうほうそうげもんはちかきょう)
唐時代 D.24.6㎝

  白銅(錫の含有量の多い青銅)を用いた鋳造製の鏡。縁を八弁の花の形にする。鏡背には、鏡胎に樹脂地を作り、その上に、貝片を用いた螺鈿による文様と、各種の砕石粒を埋めて装飾する。文様は、鈕を中心として、その周囲に鱗文を入れる鈕座、八弁の蓮弁と続き、更にこれらの周囲に八つの瑞花文、鳥花から成る主文様を順に配する。このうち、瑞花文は、隅丸方形で四周に蕾を置くが、類例が勧修寺繍仏や薬師寺金堂如来坐像の台座に認められる。また外周の主文様は、宝相華と鳥(鴛鴦及び鴨の類)を交互に配し、反時計回りに巡るように表される。鳥はいずれも綬帯を銜える含綬鳥で、中国の代表的吉祥文の形象をとる。以上の螺鈿による文様には、表面に毛彫りによって羽毛や花脈等の細部表現が施され、また、花形の文様の中央には伏彩色した上で琥珀を嵌めている。一方、砕石粒には、トルコ石やラピスラズリ、瑪瑙が用いられる。保存状態の良い本作は、煌びやかな盛唐・八世紀の様相を示す優品でと言える。

金銀平脱花枝鳥獣文八花鏡(きんぎんへいだつかしちょうじゅうもんはちかきょう)
唐時代 D. 22.0㎝
金銀平脱花枝鳥獣文八花鏡(きんぎんへいだつかしちょうじゅうもんはちかきょう)
金銀平脱花枝鳥獣文八花鏡(きんぎんへいだつかしちょうじゅうもんはちかきょう)
唐時代 D. 22.0㎝

  白銅の鋳造製の鏡で、縁を八弁の花の形にする。鏡背は、平脱によって金銀の板の様々な文様を配する。平脱とは、漆地に金属板を貼り付け、その上に漆を塗布し、乾燥後、文様部分の漆を剥ぎ取る技法である。本作は、中央の鈕を囲むように透かし彫りした金板を、その周囲に時計回りに巡る各種の鳥獣と植物の文様をそれぞれ配置する。中央の透かし彫りの金板は、29枚の小花弁の内周と16枚の宝相華の外周から成り、その周囲に歩行する鴛鴦と飛翔する鴨の類を交互に四羽ずつ表し、それらの間に植物と岩を置く。鳥を金板、植物・岩を銀板で各々作る。この更に外周は、鳥獣や大きめの植物の蔓や葉を銀板、それ以外を金板でそれぞれ表現する。鳥獣には、綬帯を銜える尾の長い鳥が二羽、花形の角を持つ鹿が二頭いる。以上の金銀板には、蹴り彫りによる細部表現が為され、また銀板はいずれも経年によって黒化しているが、当初はキラキラと輝いていた。唐時代・8世紀前半の制作と推測される。

銀貼鍍金鳥獣華文八稜鏡(ぎんばりときんちょうじゅうかもんはちりょうきょう)
唐時代 D. 15.2cm
銀貼鍍金鳥獣華文八稜鏡(ぎんばりときんちょうじゅうかもんはちりょうきょう)
銀貼鍍金鳥獣華文八稜鏡(ぎんばりときんちょうじゅうかもんはちりょうきょう)
唐時代 D. 15.2cm

  この鏡の背面を飾るのは、一枚の銀板。浮き彫り状態の主文様と細やかな彫金のうえから、鍍金が施されている。中央の鈕穴を横軸とする左右対称方向に鳥を描き、縦軸の対称として疾走する動物を配する。鳥たちはいずれも立派な尾羽や、頭上に飾り羽のある堂々とした姿である。向かって右側の鳥には、孔雀の尾羽に特徴的な丸い斑紋が描かれる。尾羽をあげて、翼を広げ、その美しさを誇示するかのような形は、唐時代の銀器や裂などにもよくみられるが、鳳凰の立ち姿として、定型化し広く伝播したスタイルであろう。
 獣たちは、短い尾と大きな角、細い脚を持つ獣で、一方は巻き込む双角が丁寧に表されている。それぞれの角の特徴から山羊と鹿(ヘラジカ)であろうと推察できる。いずれも空を疾走するような躍動感にあふれている。四つの脚を前後に伸ばし、駆ける動物描写は、この時代に典型的な描写表現である。孔雀・鳳凰といった高貴な印象を与える鳥たちの存在と比するに、空を疾走する聖獣といったところだろう。

白銅海獣葡萄鏡(はくどうかいじゅうぶどうきょう)
D. 21.3cm
金襴手瓢形瓶(はくどうかいじゅうぶどうきょう)
白銅海獣葡萄鏡(はくどうかいじゅうぶどうきょう)
D. 21.3cm

  →コレクションのページをご参照ください。

資料