公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2022年 秋季展

本館・新館

「揺ら美」

概要

 今回の展示は本館・新館ともに同タイトル。揺れる表現を水と風のカテゴリーで所蔵品をみていきます。

「水」の揺ら美:
人びとは水をどのように表してきたのでしょうか。透過する水の性質を、線や色であらわすのは困難です。人びとは様々な表現を駆使しながら水を捉えようとしてきました。その表現には、ひとしずくの水滴の流れを示す雨粒の線や、激流を描く滝の表現など、直線的な要素もみられますが、多くの場合、海・山水の広大な風景に描かれる水流のように、波としての表現が多いようです。今回は、そうした波立つ水を中心に、様々な美術・工芸にみられる表現やその技法をみていきたいと思います。

「風」の揺ら美:
「風の揺らぎ」をテーマとする展示では、空を飛翔する雲や天人、香煙などによって特色づけられる金工品や経巻の優美な世界を紹介します。このテーマは、重要文化財「金銅小幡」に象徴されます。はためいて仏堂を荘厳した本作では、たなびく天衣を纏って宙を舞う飛天、伸びやかに波打つ唐草文、そしてそれらを形作る流麗な描線の全てが一体となって、揺らぎの美が放たれています。これらの作品は、古来人々が憧れてきた障碍(しょうげ)のない清らかな場へと導いてくれます。

主な展示品
青銅製博山炉(せいどうせいはくさんろ)
後漢時代 H.27.9cm
青銅製博山炉
青銅製博山炉(せいどうせいはくさんろ)
後漢時代 H.27.9cm

 この香炉には、漢時代の神仙とそのイメージが表されている。神仙の住む世界は雲気漂う世界である。つまり、山を象る美しい円錐形の火屋(ほや)から香煙がゆらゆらと立ちのぼる構造になっている。神仙思想においては、山には鬼神がおり、これを軽視してはならないとされた。山の頂上には鳥が表され、山の下部はうごめくようにえがかれた獣達が描かれている。この山を支えるのは、獣達のうえに座す仙人である。山の下には、承盤(うけざら)が組み合わされ、これを大海にみたてたともいわれる。

鍍金龍魚文大銀盤(ときんりゅうぎょもんだいぎんばん)
唐時代 H.20.5cm × D.68.4cm
鍍金龍魚文大銀盤
鍍金龍魚文大銀盤(ときんりゅうぎょもんだいぎんばん)
唐時代 H.20.5cm × D.68.4cm

  口径が70㎝ほどもある大形の盤である。底には唐時代に多くみられる龍魚が描かれており、水を入れた容器であろうと想像される。その背景で渦を巻き流れるように描かれる波文は水の激流のようでもあり、また雲気のようにもみえる。火焔宝珠や龍魚とともに、躍動的な印象をもたらしている。側面は一変し、太く象られた蓮弁に、やはり、唐時代に多用される双鳥文が整然と配され、内側の龍魚の力を内包するかのようである。 側面に強くあらわされた蓮弁の繋ぎ文は、内側で凸線を象るが、口縁の一部が二層に分かれ、また部分的に亀裂と段差が生じていることから、外・内の二層を合わせて製作された可能性が考えられる。

絨毯 カーシャーン、ペルシア中央部
1900年頃 200 × 125㎝
絨毯 カーシャーン、ペルシア中央部
絨毯 カーシャーン、ペルシア中央部
1900年頃 200 × 125㎝

  光沢のあるシルクで織られた繊細な絨毯。フィールドに壁龕状の枠が設けられる礼拝用のミフラーブ絨毯の一種であるが、枠の内外には、水と樹木によって構成される瑞々しい世界が広がり、躍動感溢れる鳥や鹿も表される。本作の制作地であるカーシャーンは、ペルシア(イラン)の中央部に位置し、古来、絹織物やタイルなど工芸品の産地として著名である。

資料