公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2021年 秋季展

本館

中国青銅器

-円と方の協調美-
概要

 中国の古代文化を象徴する青銅器。その器形は円形と方形(四角形)の二要素を基本とします。両要素の調和は、当館所蔵の重要文化財「饕餮夔龍文方卣」において見事に果たされています。それは、古代中国人の「天円地方(天が円(まる)く、地が四角)」という世界観をも想起させます。もとより円と方は図形の根幹を成す形象であるため、いつの時代の美術においてもこれらを上手に表現することが課題となっています。
本展覧会では、白鶴コレクションを代表する中国青銅器の優品を展示し、その汎用性のある造形美と制作背景の関わりについて紹介します。

主な展示品
饕餮夔龍文方卣(とうてつきりゅうもんほうゆう)
重要文化財 殷(商)時代 通高39.2㎝ 口径11.4㎝
饕餮夔龍文方卣
饕餮夔龍文方卣(とうてつきりゅうもんほうゆう)
重要文化財 殷(商)時代 通高39.2㎝ 口径11.4㎝

 「卣」は取手と蓋を伴なう祭祀用の盛酒器。この器の蓋裏と首内側には「亜矣(上の「ム」は「ヒ」)」の金文が鋳込まれている。
中国青銅器時代の頂点といわれるのが、商時代晩期の青銅器だが、そのなかでも力強い造形を示す極めて優れた作品である。まず器形をみると、下方は方形の脚に方形の胴体部で、頸は上へと緩やかにカーブを描き、ドーム形の蓋を頂く円形の口へと続いている。次に描かれるモティーフだが、蓋上には獣身鳥形の摘みが載り、その上を双頭蛇形の持ち手が弧を描く。方形の腹部には、獣面「饕餮」が配されている。他にも饕餮と呼ばれる獣面は、この器の頸部や蓋にもあらわされるが、方形の器の角を鼻柱とした四面の饕餮が、この器の主役に相応しい。胴部の高く浮き彫りされた太い角や眼は、他のどの獣面よりも迫力があり印象的である。器の角(かど)を利用して立体的にみせようとする造形意識は、三千年前の人びとのなかにもあったのだろう。ともすれば呪術的な印象だけが強くなりがちな古代青銅器にあって、制作するひとの感性が窺われる部分でもある。

饕餮夔鳳文方彝(とうてつきほうもんほうい)
殷(商)時代 通高26.8cm 口径15.0×12.4㎝
饕餮夔鳳文方彝
饕餮夔鳳文方彝(とうてつきほうもんほうい)
殷(商)時代 通高26.8cm 口径15.0×12.4㎝

 祭祀用の盛酒器類で、「方彝」と呼ばれているが、元来、「彝」は祭祀用青銅器の総称である。全体としての器形は箱型・蓋は屋根形、蓋上に重ねて屋根型をした摘みがつく。蓋と身の各四面中央には、太い角を持つ獣面「饕餮」が大きく表される。また、身の饕餮の上には、向き合う鳥形(夔鳳文)、そして下には外向きに対称をなす蛇形(夔龍文)が配され、各三段の文様区画が明確に分けられている。器形も文様も明快な印象だが、屋根上の斜面はなだらかに丸みをもち、殷時代晩期の洗練された造形力を物語る。注目したいのは屋根型の蓋に配された饕餮が上を向いて描かれる点である。実はこの形状に関わらず、蓋に表される獣は上を向かせるものが多い。その理由は定かではないが、儀礼や祭器における饕餮という獣面の役割を考察する一助となる事例である。
この器形は他の祭祀用青銅器に比較して、制作時期も遅く類例も少ない。西周時代の作例では箱型の輪郭は、より動きのあるシルエットとなっていくようだ。 蓋と身の内側には「史」の金文が記される。

饕餮夔鳳文方尊(栄子尊)(とうてつきほうもんほうそん〈えいしそん〉)
中国 明時代 通高38.5㎝ 口径14.1㎝ 胴径26.6㎝ 景徳鎮窯
饕餮夔鳳文方尊(栄子尊)
饕餮夔鳳文方尊(栄子尊)(とうてつきほうもんほうそん〈えいしそん〉)
重要文化財 中国 西周時代 高27.7㎝ 口径23.0㎝

 この酒を容れる器は口縁のみ円形で、頸・胴・圏台部全体は方形を成すところから、天円地方尊と呼ばれたりもします。稜飾は力強くかなり発達しています。頸部は蕉葉形の区画内に相対する顧首の夔鳳文を縦に表し、その下には夔鳳文(鳳文などと呼ぶほうがふさわしい姿になっています)を飾っています。胴部には飾りの付いた羊角や人間のような耳をした顔面のみの饕餮文を、圏台部には顧首で胴体をU字形に曲げた鋭い牙を持つ夔龍文を表現しています。器内底に2行6文字の銘文を鋳出し、これと同銘の方彝が根津美術館とシカゴ美術館に所蔵されています。

金象嵌渦雲文敦(きんぞうがんかうんもんたい)
中国 戦国時代 通高18.6㎝ 口径20.2㎝
金象嵌渦雲文敦
金象嵌渦雲文敦(きんぞうがんかうんもんたい)
中国 戦国時代 通高18.6㎝ 口径20.2㎝

 全体で扁平な球形をした「敦」と呼ばれる器。身と蓋をほぼ同じ形に作ることの多い敦は、穀物などを盛る容器で、春秋時代中期頃から作例がみられる。本作は、蓋よりも身の方が、丈高に造られており、蓋に三つの環状の飾り、身に三本の獣脚と二つの獣形の把手がそれぞれ造り出される。蓋も裏返すと器になる機能を備える。器胴部から蓋にかけて、やはり春秋時代中期頃から盛んに行われるようになる象嵌による横方向の区画が設けられ、身の下部に花弁形の垂飾文を巡らす他は、渦雲文と素文が交互に配される。
象嵌は一見して金を用いるようであるが、他の金属の上に金を施している。その他、脚や把手、蓋の環状飾りにも同じく象嵌がなされるが、把手は目玉の飛び出る獅子のような顔の獣が身体を丸めて自らの下半身に噛み付くような表現をとり、脚には逆さ向きの獣面が表される。当時の人々の世界観を反映する不可思議な造形は現代に生きる我々も魅了する。器形や文様から制作年代は、戦国時代と考えられる。

資料