展覧会情報
2018年 秋季展
近代中東絨毯
概要
近代において、ペルシア・アナトリア・コーカサスの各地域が繊細で迫力のある美術工芸として絨毯を生み出しています。それは色糸によって描かれる大画面の点描画として、伝統的な文様に近代的な感覚を取り入れ、より細かく多色で美しい作品へと発展していきました。今回展示するペルシア、イスファハーンのシュレシ工房でつくられた絨毯では、0.5mmのペン先で描くに等しい細かな織りがみられます。現代では色数も増え、「絵画絨毯」と呼ばれる、一見、写真と見紛うような作品もありますが、それは19世紀以降に成長を遂げた近代絨毯産業の延長上に生み出された姿といえるでしょう。
近代の中東に於いて一大輸出産業となった「伝統美術工芸」絨毯。優れた絨毯を観察することで、当時の絨毯工房の飽くなき挑戦を垣間見ることができるのです。
主な展示品
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メグリ、アナトリア西部1850年ごろ 165×120cm
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メグリ、アナトリア西部1850年ごろ 165×120cm
文様は文化を反映している。絨毯の発達が牧羊を生活基盤とする文化によってもたらされたように、中東、特に絨毯を製作する人びとにとって羊は極めて身近な存在である。早くから羊や山羊の姿は描かれ、装飾モティーフとして美術工芸品も彩ってきた。この絨毯のフィールド(中央主要画面)は縦長になった二つの六角形が並び、左の紺地には羊頭(あるいは山羊の頭部か)、右の赤地には生命の樹を描いている。いずれも古くから豊穣の画題として多様に描かれてきただけに、各色のパーツだけではとイメージを捉えることができないほどデザイン化されている。
上記、ふたつの主要な図を配した六角形の外側には、大きな八角星形が配される。一般に星を示すといわれるこの形は、アナトリアを中心に中東地域の広範囲でみられる幾何学文である。白地のボーダー(絨毯上の画において外縁、主画面の枠となる部分)には四方形繋の文様、また黄地のボーダーにはカーネーションが並ぶ。
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イスファハーン、シュレシ、
ペルシア中央部20世紀中期 -
イスファハーン、シュレシ、ペルシア中央部20世紀中期
優れたデザイン性、その複雑さと優美さを活かす織りの繊細さが特徴の作品である。フィールド(中央画面)に埋め尽くされる流麗な植物文様の曲線を辿ってみると、全体の文様構成は反復されていないことがわかる。文様の輪郭線には異なる色を入れ文様の輪郭やその色を引き立たせる。意識的に観察しなければ確認できないほど細い挿し色である。ウールの柔らかな質感ながら、緻密な織りと巧妙な色遣いが、この複雑な図柄を鮮やかに浮かび上がらせている。
絨毯の画面は色糸の結びによって作られていくが、この絨毯の場合、1平方メートルあたり200万ノット(パイル糸の結びの数)。つまり、縦2mの大画面をつくりあげる500万ノット以上の極細パイル糸一本一本が、わずか0.5平方ミリメートルのペン先の点描一点のようなものなのである。
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ヘレケ、アナトリア中央部20世紀後期
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ヘレケ、アナトリア中央部20世紀後期
ヘレケはシルク絨毯で知られる。1平方メートルあたり100万ノット(経糸に結び付けられたパイル糸数)程度に達する密度の高さもヘレケ絨毯の特徴のひとつとなっている。中央に円形のメダリオン、四隅に飾りのつくメダリオンアンドコーナーの形式はペルシアの影響を受けたもの。ヘレケには王宮工房があったため、それを引き継ぐ繊細なモティーフを織り込む絨毯が多く生産されている。 この絨毯はベージュを基調とする落ち着いた色調が大きな特徴となっている。壮麗な蔓草でつないだ個々の花文にアナトリア地域らしい印象を感じる。
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クバ―ぺルぺディール、
コーカサス1900年ごろ -
クバ―ぺルぺディール、コーカサス1900年ごろ
コーカサス絨毯は幾何学的な文様を展開するものが多く、直線的で大胆なイメージがある。この絨毯もそうした特徴を有する。この絨毯には「羊角」と称するフック形文様が並び、その前後左右に鳥ともラクダともいわれる文様が反復される。 パイルの織りは、コーカサス地域のなかでも特に細やかで正確である。また織りの密度も高い。経糸二本どちらにも巻きつけて結ぶ、いわゆる「トルコ結び」で織られている。