古代より人びとは金属を必要な形状に加工し装飾を施して、様々な用途に用いてきました。
当館は、中国、殷・西周時代、青銅の鋳造技術がもたらした優れた造形の祭器や、唐時代、彫金技術が最高潮に達した時代の銀器など、各時代の美術と呼ぶに相応しい金工品を所蔵しています。
また、日本の金工品では、大陸の影響を受けた古墳時代の装身具、そして、仏教美術が花開く飛鳥・奈良時代の仏具・荘厳具などがあり、技術に裏打ちされた美しさをみることができます。
今回の展示では、個々の作品について、材料そして技法などを観察し、各時代に培われた造形をみていきたいと思います。
新館では中東絨毯より、当館が所蔵する南コーカサス地方の絨毯(19世紀後半から20世紀初期)を、カスピ海沿岸地域と中央部の山岳沿いの地域に分けて展示します。併せてご鑑賞ください。
1995年10月に当館の新館が開館いたしました。同年、1月におきた阪神淡路大震災の影響により、7か月遅れとなりましたが、その開館は当館の復興記念ともなりました。
次回の秋季展には、開館当初から所蔵する当館第4第理事長嘉納秀郎(白鶴酒造第10代)コレクションの中東絨毯とともに、この30年間に新たに加わった絨毯コレクションも初公開します。
次回の展示も是非お越しください。
隋時代 H.15.7 x W.15.1cm
五尊仏と二僧形が浮彫された約15㎝四方の鍍金銅板である。
「鎚鍱」とは、日本の「押出」・「打ち出し」と呼ばれる製法であり、銅板を原型となる型にのせ、たたいて成形する鍛金(たんきん)技法である。
この作品も型に載せて作られた銅板であるため、表の浮き出した仏像などは裏側からみると凹んだ状態になっている。本作の四隅や中央の仏座像頭光両側、僧形立像蓮台下の茎横に穿(うが)たれた小さな穴は壁や厨子などに張りつけるためであろう。
型を用いるということは、祈祷・信仰の需要のもと複数の製作を目的としていたことをうかがわせる。但し、この素朴な愛らしさに満ちた柔和な表情を含め、細部の造形は表から鏨(たがね)で整えられたもので、この彫金技術が造形に与える影響は大きい。
唐時代 H.3.6 x D.15.1cm
この作品の横長に広がる形は、ペルシアの器に影響を受けたものとされ、奈良、正倉院の宝物にも金銅(銅に鍍金)製の八曲長杯やガラス製で脚部のない十二曲長杯が伝わっている。
すなわち、人びとの憧れをもって伝播したこの美しい形は、銀の板を打ち出す、鍛造で成形されたものである。
銀は柔らかく加工しやすいが、反面、変形しやすく、変色も起こる。貴重な金属でもあるため、権力富裕層の所有する食器・装飾・装身具などの銀製品が唐墓などの副葬品としてみつかっている。
文様は唐時代によく表される唐草や花鳥文で鍍金が施され、銀色の地には魚々子(ななこ)と呼ばれる小さな円文をびっしりと埋め尽くしている。
唐時代 上:L.32.7㎝ / 下:L.33.0㎝
銀板を形に抜き、細かに透かし彫りをしている。鳥の飾り羽を思わせる華麗な装飾付きの簪で、全長33㎝ほど。一対の大きな髪飾りであるが、重さは各35g程度で極めて薄い。繊細な印象は、彫金の細やかさにある。
二股になった簪は本来、「釵(さい)」というが、その本体部分および飾り部分の葉文と中央の地の魚々子文は銀地とし、飾りの縁や日本の沢潟(おもだか)文に類似の三花弁の花と霊芝にも似た雲気文に鍍金を施している。
薄いため、裏面は表の彫線が写る。それを利用しつつ部分的に鍍金を施し、表裏の造形的な落差を減じてはいるが、基本的に表を正面に向け、左右から髪に挿すかたちで使用されたものだろう。
20世紀初期 240×160㎝
放射状にのびる四枚の羽根がついた十字形のメダリオンが連なる。デザイン・織りの技術ともに洗練された絨毯である。
カスピ海の西に位置するダゲスタンの南方、アゼルバイジャンの国境に近いクバ近郊のセイチュールのデザインとして知られる。
この絨毯では、フィールド(絨毯中央部分)に四連の十字形のメダリオン(メダル形)が配され、メイン・ボーダー(最も太い枠状の文様帯)を含め9本にも及ぶボーダーが端正なデザインを引き立てている。
1900年ごろ 222×132㎝
紺地のフィールドには、放射状四方向に延びる羽根のある十字形メダリオンを縦三連にする。
カラバフ地方北部のチェラビの地名から「チェラベルド」と呼ばれるメダリオンに影響を受けたデザインとされる。それは、白貫に描かれた十字形と放射状に延びる突起が特徴で、「イーグル・カザック」などとも称されているが、本作品のメダリオンは形も配色もかなり単純化された印象である。
メイン・ボーダーは黄色地に斜め繋ぎの葉文とその間に茎と花のイメージが配されている。
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