新館は当館60周年記念事業において、第4代理事長嘉納秀郎(白鶴酒造第10代)コレクションのペルシア・アナトリア・コーカサス絨毯を主な所蔵品とする展示施設として設立されました。
開館は1995年10月。同年1月におきた阪神淡路大震災の影響を受け、予定より7か月遅れての初公開でしたが、当館復興を記念する展示ともなりました。
今秋は新館開館30周年として、当初より所蔵する中東絨毯の優品を中心に、この30年間に寄贈されたホータン(中国)やムガール(インド)の絨毯も一部初公開致します。
本館は、所蔵の中国陶磁展となっております。繁栄を意味する荷葉(かよう:蓮)や柘榴、富貴を表す牡丹、長寿の象徴たる松、吉祥の徴(しるし)である鳳凰や麒麟など、華やかで寿(ことほ)ぎに満ちた文様世界をご鑑賞ください。
19世紀中期 214×114㎝
中央フィールド(絨毯主要画面)に3つの星型メダリオン(メダル形)を配する。同じ二つ正方形の中心を45度ずらして重ねた八角星形を基本とする文様は、イスラーム建築のタイルなどに見られ、イスラーム文化の象徴的な形ともなっている。メダリオンの間に向き合う形で配された鳥形は、アクスタファ・デザインの典型的なモチーフで、冠羽(かんう)と立派な尾羽から、クジャクのモチーフと思われる。
メインボーダー(フィールドを囲む主要枠)には、背中合わせにした鳥(「インターロック」と呼ばれる)文が連続する。細やかに装飾の施されたデザインとなっている。
20世紀初期 310×229㎝
古くから伝統工芸の町として知られたカーシャーンで、19世紀末から20世紀初期につくられた品質の高い絨毯は、工匠名に由来してモフタシャムと総称される。
本作品は、フィールド中央に二層の曲線的なメダリオン(メダル形)を置き、四隅にこの形を四分割したシルエットに似せた区画をデザインしている。それぞれの区画と外周のメインボーダーは、 蔓(つる)草文(エスリム)と、多彩な花や鳥で埋め尽くされている。
それぞれの地色に「アブラッシュ」と呼ばれる染め班(むら)がみられるが、文様の輪郭の明快さは織り手の熟練度を示している。
20世紀中期 103×100㎝
臙脂(えんじ)とインディゴの明快なコントラストを基調としながらも、図案の豊かさを印象付けるベルガマ地方の絨毯。絨毯下部に織り込まれたモヘアウールは類例が少ない珍しい形である。
このような特徴の小型の絨毯は「乙女」の名が冠されたキズ・ベルガマ(Kiz Bergama)と称されるもので、花嫁が自ら製作し婚礼調度品として婚家に持参するといった、村落生活における婚姻儀礼では欠かせない役割を担う。
フック文様に囲われたコーナー(絨毯主要画面の四隅)と菱形のメダリオン(メダル形)の内部に、幾何学的な花のモチーフが満たされた、乙女の絨毯にふさわしい華麗な作品となっている。
唐時代 D.28.8cm
唐三彩は鮮やかな美しさが魅力の陶磁器である。多くは副葬品として製作された。俑(よう:人形や動物形)や金属器の飲食器写しなどがあり、当時の文化を知るうえで重要な器物となっている。
この作品の中央の円形に雁と雲気文が描かれている。その周りを旋回する緑の扇状文様が「荷葉(かよう)」、すなわち蓮の葉である。蓮の葉の間に描かれる反復文様は、霊芝雲。霊芝は仙人の食物とされる。蓮は水辺で繁茂する生態から生命力の象徴となっている。
明時代 D.27.0 cm
明時代、嘉靖年間(1522-1566)に景徳鎮窯で焼成された「金襴手」は、赤や青・白などの地に金彩文様を焼き付けた器で、その艶(あで)やかは、まさに金糸を織り込んだ染織品である金襴緞子(きんらんどんす)を思わせる。本作の場合、赤い外側に施された金彩が部分的に残っており、富貴の象徴たる牡丹文が描かれていたことが伺える。
内底には「寿」の文字を象る松を、口縁部にも吉祥植物文の代表である松竹梅を配する。寿字の松を囲む八角芒星(ぼうせい)形の内側に描かれる繋(つな)ぎ文は、観音像などの胸元にみえる装身具、「瓔珞(ようらく)」をモチーフとする吉祥文である。
明時代 H.62.4㎝
多産・子孫繁栄を表す瓢(ひさご)形を基に、下部を方形に象る。各四面には八稜形が配され、その中央に金彩による牡丹唐草文、その周りに二つの方形を45度ずらして重ねた八角星形が描かれている。
本作は金彩の残りのよい艶(あで)やかな器で、この作品にのように、金彩の文様には牡丹唐草文・八卦文(はっけ:三段横棒状の文様)や、吉祥を表す文字などがみられる。
上部の地文である「毘沙門亀甲(びしゃもんひし)」状の文様は、仏教における眷属(けんぞく)などの胴着を思わせるものだが、下部地文の菱花状の繋ぎ文とともに、吉祥文として金襴手の装飾に多用される文様となっている。
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