公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2022年 春季展

本館

中国陶磁編

-モノクロームの世界+色絵の世界-
概要

 白鶴美術館コレクションの柱のひとつとなっているのが、優品を数多く含む中国陶磁器です。今回の展示では、世界に誇る名品を二つのテーマに分けてご紹介したいと思います。
 ひとつは宋時代の黒釉や掻落(かきおとし)技法を軸とするモノクロームの世界。もうひとつは、明時代の五彩を軸とする色彩豊かな色絵の世界です。
 「モノクローム」のなかでも最も際立つ作品のひとつが、北宋時代の名品「白地黒掻落龍文梅瓶」(重要文化財)です。黒と白のコントラストにより迫力のある龍の姿が浮かぶ美しい器ですが、技法の原点には白い器への憧憬があったといわれます。
 陶磁器が豊かな色彩を得る明時代。一気に華やかに、そしてより自由に色絵が描かれるようになります。赤を基調とし、金彩で彩られた金襴手の名品「金襴手瓢形瓶」や、明時代においても格別の繊細さを有する「五彩武人図有蓋壺」などは、この時代の陶磁器を愉しむに相応しい作品です。
 モノクロームと多色をテーマに漢時代から清時代まで、中国陶磁史を彩る各作品の魅力をご堪能頂ければと思います。

主な展示品
唐三彩鳳首瓶(とうさんさいほうしゅへい)
中国 唐時代 通高35.6㎝ 口径8.7×5.8㎝ 胴径16.8㎝
唐三彩鳳首瓶
唐三彩鳳首瓶(とうさんさいほうしゅへい)
中国 唐時代 通高35.6㎝ 口径8.7×5.8㎝ 胴径16.8㎝

 唐三彩を代表する作品。白化粧の上に透明釉をかけ、更にその上に緑色と黄褐色の釉薬を流しがけしている。緑と黄褐色が交り合い、美しい流斑が見られ、それが立体的な器形と調和していることが本作品の大きな特徴である。鉛釉で彩られた三彩は、黄、緑、白の色合いを基調とするが、三彩の確立によって、釉色による表現の幅は大きく広がった。本作には、その三彩表現が存分に発揮されている。
 本作は、鳳凰を象り、注ぎ口がその顔となっており、やや歪んだ口を開け、目は垂れて窪んでいる。頭部と胴部を繋ぐ把手(取っ手)は植物の茎の形象を採り、葡萄の実のようなものを下部に付けている。胴部は、鳥の柔らかな身体を思わせるように中央よりやや下側でぷっくりと膨らむ。
 外面には多くの装飾が施されるが、中央部分には鳳凰を表す計五つの円相が配され、円相の間には植物文様、またこれらの上下には植物文を入れる蓮弁形がそれぞれ表される。これらの文様は全て貼花(ちょうか)と呼ばれる型押しによるもので、実のところ数種類の型しか用いずに制作され、上下に反転させるなどして変化をつけている。
 本作品のような形象の水瓶は、中央アジア或いは西アジアから中国に伝わった金属器を範としたものと考えられ、金属器に表された文様の立体性を貼花によって再現したと推測される。

重要文化財 
白地黒搔落龍文梅瓶(しろじくろかきおとしりゅうもんめいぴん)
中国 北宋時代 高40.5㎝ 口径6.2㎝ 胴径21.6㎝ 磁州窯
唐三彩鳳首瓶
重要文化財 白地黒搔落龍文梅瓶(しろじくろかきおとしりゅうもんめいぴん)
中国 北宋時代 高40.5㎝ 口径6.2㎝ 胴径21.6㎝ 磁州窯

  磁州窯はもと、10世紀中頃(五代末~北宋時代初期)に始まり、現代でも操業を続けている河北省邯鄲市近郊の磁県に位置する窯場をさす呼び名でした。ところが、中国北部(河南、山西、陝西、山東、遼寧、寧夏、内蒙古など)の諸窯でよく似た陶器が焼かれていたため、現在ではそれらを含む総称として用いられています。この龍文梅瓶は本来の磁州窯の代表的窯場・観台窯(元末・明初頃生産中止)で焼造されたと看做されています。北宋~金時代に盛行した白地黒掻落の現存作品中、傑作の誉れの高いものです。
 白地黒掻落とは、素地全体に白土を化粧掛けし、更に全面に黒泥(鉄絵具)をかけ、この瓶の場合、龍文と肩、裾の捻じ花風の花弁文を細かく線刻した後、文様以外の黒泥を丹念に掻き落し透明釉を施して焼き上げる技法です。石炭を燃料とする饅頭形の窯で焼かれた故か、釉が僅かに黄色味を帯びて失透しています。また全面に細かい貫入が入ることにより、白黒の対比が和らいでいる感じがします。
 瓶の胴部を廻(めぐ)る口を大きく開けた三爪の龍は、ぐっと見張った眼、力強く縁取られた豊かな鬣(たてがみ)、大きく波打つ背鰭(せびれ)、巻き返った魚尾をもつ異形のもので、しかも前脚が2本しかなく、特に振りかざした右前足の掌に当たるところには、肉球表現を意図したと思われる三つの円文が刻まれています。
 ところで梅瓶とは口が小さく、肩が大きく張り、胴の途中から急にすぼまるこの手の瓶の中国における呼称で、器面に「清沽美酒(せいこびしゅ)」と書かれた例のあることから酒壺として使用されたと考えられています。また、小説の挿し絵で、結婚の申し込みに酒を用意した場面に、梅瓶が描かれたりしています。その名の由来についてははっきりしませんが、本来、酒瓶であったものを、花生として梅一枝を挿して鑑賞したところから、梅瓶と呼ばれるようになったとも言われています。

五彩武人図有蓋壺(ごさいぶじんずゆうがいこ)
中国 明時代 通高38.5㎝ 口径14.1㎝ 胴径26.6㎝ 景徳鎮窯
五彩武人図有蓋壺
五彩武人図有蓋壺(ごさいぶじんずゆうがいこ)
中国 明時代 通高38.5㎝ 口径14.1㎝ 胴径26.6㎝ 景徳鎮窯

  本展覧会のメインの作品の一つ。豊富な彩色と精緻な胴部の上絵付けを特徴とする。大きな宝珠形の鈕(ちゅう、つまみ)を付ける蓋を伴い、肩の張るこの形式の器は、「沈香壺」と称され、香木を入れる目的で作られたものである。しかし、明・嘉靖年間(1522~1566)の民窯で焼かれた五彩の作品の中では、出色のできばえを誇る本作の制作には特殊な需要が想定されている。四方襷文や七宝繋文、瓔珞文、牡丹文や獅子など、五彩に頻出する吉祥文と共に描かれる胴部の人物図には、合計24の人物が登場するが、拳法を鑑賞する高官や武将、走り回る童子など、全体が物語性を伴って生き生きと描写される。衝立(ついたて)や背景の城壁の上部から武器の先端が覗いており、戦時中の説話が反映されていると考えられるが、具体的な出典は不詳である。
 類品が、出光美術館とパリのギメ東洋美術館に所蔵される。鴻池家伝来。

金襴手瓢形瓶(きんらんでひさごがたへい)
中国 明時代 嘉靖年間 高62.4㎝ 口径6.0㎝ 胴径34.0㎝ 景徳鎮窯
金襴手瓢形瓶
金襴手瓢形瓶(きんらんでひさごがたへい)
中国 明時代 嘉靖年間 高62.4㎝ 口径6.0㎝ 胴径34.0㎝ 景徳鎮窯

  瓢箪の形の瓶。白磁の上に色絵付けによって文様を描き焼成した後に、更に金による文様を焼き付ける。日本ではこの手の陶磁器を金襴手と称する。明代には景徳鎮(現中国江西省)の一般民衆向けの窯場(民窯)で金襴手が制作されたが、本作もその一つ。

 本作は瓢箪形に上下に二つの膨らみを持つが、上部が丸く整えられ、下部が方形を呈する。それぞれ、主文様の周囲に毘沙門亀甲繋文、四方襷文を細かく入れて空間を埋めている。上部では、主文様として大きな赤の円形を四つ作り、それらの間の上下に小さな円形を入れる。赤玉と呼ばれるこれらの円形の中に金による文様が表されるが、大きな方の文様は牡丹、小さな方のそれは八卦である。前者の上は蓮の葉で覆われ、更に下からは蓮が生え出て支えるようである。

 一方、下部の方形の膨らみは、各面に八角の枠を設け、その内側に方形を二つ重ね、両者の重なり部分の内側を赤で塗る。この内側部分にも金が貼られており、既に模糊としているが、豪勢な牡丹を表す。以上、上部には運勢や吉凶を占う八卦が見られ、下部にも「八」に基づく形象があり、加えて華やかな牡丹がそれらの中心となっており、器全体が吉祥を示す。またこれら上下の膨らみ同士の間の中間部分も赤く塗られ、金の牡丹を置き、かつその下の斜面の肩部分には雲気文が表される。そして、こうした世界観を端的に表現するように底裏に「富貴佳器」と記される。基本的な文様の構成は、本館所蔵の「金襴手瓢形大瓶」と同系統であるが、両者を比較すると、本作の絵付けの描線は揺れ動いて緊張感に欠け、文様が正確に入れられていない箇所が目立つ。複数の職人の存在を窺わせる差違だが、50万人もの窯業人口がいたとされる景徳鎮の様子を垣間見せる。

資料