展覧会

2021年 春季展

本館

「大きな美術と小さな美術 ―東洋工芸 鑑賞と実用―

古来、実用に供されると同時に人々を魅了してきた工芸品。その最も重要な要素の一つとして、大きさがありますその中には大きさや小ささが重要な要素となったものもあり、一方で迫力に満ち溢れ、大きくてどっしりした安定感が際立つ工芸品が必要とされ、他方では小さくて使い勝手の頗る良い実用性に富んだ工芸品も存在します。加えて、大きさは造形や文様と共に鑑賞性も導きます。作品が生み出される背景には、高い技術力が存在するため、こうした実用性と鑑賞性を具える工芸品の魅力は、制作者への尊敬の念とも言い換えることができます。
 白鶴美術館は、中国はじめ東洋の優れた工芸作品を所蔵する館として世に知られています。当館は、世界最大級の大きさを誇る青銅器、銀器、水晶玉から、小さく愛らしい上に精巧な作りの装身具に至るまで広範な作品を有しています。その多岐に亙る諸分野の中には仏教美術も含まれます。本展覧会では、大きさに着目し、驚きの器面を現出する工芸作品の数々を展示します。

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主な展示品

唐草文蛤形銀盒子

唐草文蛤形銀盒子(からくさもんはまぐりがたぎんごうす)

中国 唐時代 高さ1.8㎝ 径4.6㎝

銀という素材が高貴さを漂わせる直径4.6㎝の小さな器。表裏の別なく膨らんだ姿が写実的で愛らしい。今でこそ黒みがかった渋い色に変化しているが、全体に魚々子と呼ばれる小さな丸い粒の地文は、ザラザラと白く光る輝きをもたらしていたことだろう。

同時代、本物の蛤が女性の化粧品などをいれる器として使われているが、この作品も同様の目的で作られたのであろう。この銀器の内部も本物の貝さながらに、滑らかな面に仕上がっている。

蝶番(ちょうつがい)は貝の靭帯(じんたい)部からは逸れた位置に付けられている。靭帯部外側の写実的な造形を損なうリスクを避けたものだろうか。その蝶番側は鳥の羽を思わせる鱗状の文様で覆われる。扇状に広がった面にはバランスよく配された二つの団花文や西方由来のパルメット文などが配され、いかにも唐時代らしい雰囲気を醸し出している。

白石蓮台

白石蓮台(はくせきれんだい)

中国 北斉時代・武平元(570)年 高さ25.3㎝

乳白色の白大理石による蓮華の台座。仏像の足元に置かれた台座は、香炉、蓮華や宝石、輝く光の要素、そして神獣を散りばめる。重さが21.3㎏あり、大きさの割にずっしりと重い。

当初、上面中央部に大きく空けられている枘穴に仏像を挿して用いられていた。その枘穴内には朱字の銘文が書かれる。ここから、本作が北斉時代・武平元(570)年に呂氏により、国の繁栄と儲宮(皇太子か)の幸福を願って発注・制作された観音像の台座であったことが分かる。八方五段の蓮弁によって構成される本作には、蓮を支える獅子や畏獣、博山炉などを配し、それぞれに緑青、群青、朱で彩色し、墨で面貌が描かれる。仏像にたむける香を入れる博山炉が当初は正面にきていたはずで、博山炉及びそれに近い獅子や畏獣には、貼金がふんだんに施さていた。それに対して、博山炉とは逆の背面にある像には貼金がされず、また人面や猿面の畏獣や蓮華化生、連珠内の獣面など新たな要素が加わっている。 蓮弁をはじめとして各モティーフはいずれもぷっくりと肉付きよく、柔らかみがあり、白大理石という素材や彩色方法と共に、6世紀後半・北斉時代の中心地であった現・河北省辺りの作品の特徴をよく備えている。しかし、本作ほどに立体感のある蓮弁、保存良く残る彩色を備える作品は他に例がない。

蟠螭文大鑑

蟠螭文大鑑(ばんちもんたいかん)

中国 春秋~戦国時代 高さ37.3㎝ 口径80.3㎝

直径 80.3㎝。大鑑と呼ばれる大型の青銅器である。青銅器に記される古代の文字、金文において、「鑑」は「監」で、「盤に水を盛り、顔容を写す形の字」(『字統』白川静著)とされる。

考古遺物としての鑑は、春秋後期に現れた形で、湯や水をはる大盥(たらい)と考えられている。うねうねと絡みつつ、規則的に反復する蟠螭文は、この時代に独特の造形感覚を呈しており、確かに、口のすぐ下に細かくびっしりと描かれた鱗文は、水にまつわる器を印象付けている。

いくつかの類例と比べたとき、本作の大きな特徴になるのは、口縁部の下に一か所、先端部を牛の頭部らしき動物に象った筒が突き出していることである。その開いた口の奥は器の内部まで通じている。造形上、貯められた水などが一定の量を過ぎると流れ出る仕様になっているわけである。

鍍金龍魚文大銀盤

鍍金龍魚文大銀盤(ときんりゅうぎょもんだいぎんばん)

中国 唐時代 高さ20.5㎝ 口径68.4㎝

唐代銀器の中で最大級の作品。赤子を産湯につける際に用いられたとも推測されている。鎚鍱によって成形し、当初は圏台と取っ手が付けられていた。文様は力強い毛彫りによって表され、器全体が蓮に見立てられている。各蓮弁の内部には宝相華と十字に結ばれた同心結があり、それに向かってツガイの鳥が嘴を突き出している。これは、和合を意味する吉祥文である。また、内底には、頭が龍で身体が魚のマカラと称される図像が描かれる。マカラは仏教美術にも頻繁に表される。総じて本作は、単なる赤子ではなく、釈迦の誕生と関係し、日本でも花祭りとして知られる灌仏会において、香水や甘茶をかける目的で釈迦誕生仏像を立てる盤(灌仏盤)として用いられた可能性が指摘できよう。

六鳳蟠龍文盤

六鳳蟠龍文盤(ろくほうばんりゅうもんばん)

中国 西周時代 通高13.3㎝ 口径30.7㎝

口径30.7㎝の浅い皿状の器に饕餮文を伴う円足が付く。口縁に乗る六羽の鳥は、青銅器の世界では珍しく愛らしささえ感じる造形である。この器が水にまつわるものであったことは、縁に描かれた魚文にも表れているが、内底の面に描かれる大きな獣面は、水底からこちらをみる沼の主のように中央に大きく描かれ、その身体は顔の外側にとぐろを巻く形で表現されている。

このような水に関わる器とその内底の「主」は、重要な表現構成であったのだろう。時代を超え、龍の姿に引き継がれていくようだ。

重要文化財 鍍金龍池鴛鴦双魚文銀洗

重要文化財 鍍金龍池鴛鴦双魚文銀洗
(ときんりゅうちえんおうそうぎょもんぎんせん)

中国 唐時代 高さ5.2㎝ 口径14.5㎝

唐代銀器を代表する作品。口径僅か14.5㎝の小さな器であるが、器形が安定し、重さは309gを計る。加えて、精緻な文様が相まって圧倒的な迫力が生み出されている。

本作は、鎚鍱によって作られており、外面に14個の花形と滴形の凸面の枠が設けられる。枠の中には、植物や唐草文を表す。唐草は、形態を単純化しつつも花弁の折り重なりを表現する花と流麗な茎からなる。また、枠の上下の空間には、鴛鴦、鴨、戴勝などの鳥や鹿、狐など計33体の禽獣が植物や石、雲気の間に配され、各々思いのままに行動している。底裏には、華やかな宝相華文が刻まれている。

これら文様の輪郭は全て楔形の彫りを連ねて線とする蹴り彫りという技法で力強く引かれ、また、文様間の空間は小さな粒状の魚々子文で埋め尽くされる。この魚々子文は、一説に金粒などを器の表面に細かくつける技法を模したものではないかとも言われる。内底には、本体とは別に鎚鍱した銀板をはめ込むが、水面に顔を出す龍のような怪獣を中心として、その周囲を鯰、鴛鴦、鯉が泳ぎ回る様子が表されている。本作品が水と関係することを覗わせるが、その具体的な用途は不明である。 類品が、米国のカザスシティ・ネルソン=アトキンズ美術館に所蔵されている。

鍍金五尊板仏

鍍金五尊板仏(ときんごそんいたぶつ)

中国 唐時代 縦8.4㎝×横7.8㎝

鋳造によって作られた銅製板仏。保存状態が良く、鍍金も残りが良い。小さな枠内に、仏教の尊像と文様が、所せましと配されている。

内区は、蓮台に坐す如来坐像を中心に、その両脇に比丘像(僧像)、脇侍菩薩像を各一躯、下に香炉と二体の獅子、二体の供養者像をそれぞれ配する。如来は右手を下に向ける触地印とし、左手を膝前に垂らし、腰の括れた身体に薄手の袈裟を偏袒右肩で纏う。如何にもインド風のこの像は、インド・ボードガヤーの正当な釈迦降魔成道像を写し、7世紀後半から8世紀後半の唐王朝下で流行した像容に連なる。類品は、日本の山田寺遺趾からも出土している。

また、外区は、上部に外郭が弧を描く枠を設け、その内側に、石や色ガラスを嵌めたであろう窪みが3つ設けられている。その下側、左右には獣に乗る像や顔のみのマカラ像が見られ、国宝の勧修寺繍帳(奈良国立博物館蔵)などに見られる所謂グプタ式背屏と同構成をとる。

唐代の人々が仏教の本場・インドの正当な作品を追い求めた情熱の結晶たる作品である。当初は、寺院や厨子内の壁面を複数個連ねて荘厳していたのであろうか。

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