展覧会

2019年 秋季展

新館

絨毯 ―描かれた図形と文字―

織り文様には反復するデザインが多くみられます。それは画面を思いのままに彩る絵筆とは異なり、キャンバス自身を作りつつモティーフを描くという、不自由な造形が影響しています。幾度となく繰り返される動作に相応しい表現だともいえます。 織物のひとつである絨毯も、下地を作りながら、図となるパイル糸を織り込んでいきます。ただ、絨毯の場合、パイル糸は下地そのものではなく、経糸に結びつけ、またそれごとに切られるため、図を描く自由度が比較的に高い構造です。そうした造形において、織り手は花や花瓶、鳥や羊、また日常生活の道具など、身近なものを表してきました。それは作者を取り巻く文化の表象でもあるわけですが、織りの技術やデザインの向上は、正確に反復する文様だけでなく、より絵画的な図像、また筆によって発展してきた流麗な「書」も取り込んでいきます。文字、また書体が伝えるものは、その言語を有する人びとにとっての文化そのものでしょう。 今回は絨毯上に反復される図形や記号化した図像、そして文字の形などに注目してみます。

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主な展示品

メグリ,アナトリア西部

1850年ごろ 165×120㎝

文様は文化を反映している。絨毯の発達が牧羊を生活基盤とする文化によってもたらされたように、中東、特に絨毯を製作する人びとにとって羊は極めて身近な存在である。早くから羊や山羊の姿は描かれ、装飾モティーフとして美術工芸品も彩ってきた。この絨毯のフィールド(中央主要画面)は縦長になった二つの六角形が並び、左の紺地には羊頭(あるいは山羊の頭部か)、右の赤地には生命の樹を描いている。いずれも古くから豊穣の画題として多様に描かれてきただけに、各色のパーツだけではとイメージを捉えることができないほどデザイン化されている。

上記、ふたつの主要な図を配した六角形の外側には、大きな八角星形が配される。一般に星を示すといわれるこの形は、アナトリアを中心に中東地域の広範囲でみられる幾何学文である。白地のボーダー(絨毯上の画において外縁、主画面の枠となる部分)には四方形繋の文様、また黄地のボーダーにはカーネーションが並ぶ。

ヤジベデイール、アナトリア西部

19世紀後期 152×120cm

「ヤジベデイール」は、アナトリア北西部に定住した遊牧民族名にみられるが、むしろ、その地域にみられる作品で紺・赤・白と色数の少なく、星形や角形、幾何学的な文様を特徴とする絨毯の名称として知られている。

アニミズム、シャーマニズムに根差した文様も多く、この作品の中央ミフラーブ(アーチ形)の上左右と内部に繰り返される主文は、豊かさを象徴するエリベリンデ(古代アナトリアの女性像・土偶)の形といわれている。「ハンズ・オン・ヒップス」と称されるこの種の文様は、ここでは突起と末広に連なった菱形を下に伴う五角形で表されているが、他にも頭部を頂点に概ね三角形に表したものから、腕の張り出し、或いは腰のボリュームをイメージさせる菱形、或いは首・体・脚部を菱形の連結で示したものなどがあり、極めてバリエーションの多い図となっている。

モフタシャム・カシャン,ベルシア中央部

1900年ごろ 211×133㎝

この画はササン朝ペルシア(226 – 651)の王、バフラーム五世を主人公とした『七王妃物語』「羊飼いと王」の一節を示す。ある日、狩りに出かけた王は王宮への帰還中に羊飼いに出会う。傍らの樹に縛り付けられた犬をみた王は、その理由を問うが、羊飼いの語った言葉から王は自身の臣下と政治について悟る。

画は中央に流れる川で二分割されており、下部は王が羊飼いに出会う場面、上部が宮廷に帰った王が不正を問いただし、家臣を罰する場面である。三重のボーダーには斜めに走る流麗さが特徴のペルシア書体がみられる。これらは画面のストーリーを記したもので、デザイン化された文字が一枚の絨毯の古典世界を華麗に彩っている。

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